鈴の音頼りに「心の目」で打つべし 視覚障害の私が見つけた希望の拳

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松永佳伸
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 名古屋発祥の障害者スポーツがある。視覚障害者が、鈴の音だけを頼りに相手の位置を確かめ、「心の目」でパンチを繰り出す「ブラインドボクシング」だ。誕生して10年余り、競技は普及の途上だが、視覚障害のある人たちの「希望」に育ちつつある。

 「ワンツー、ワンツー」「ジャブ、ストレート、フック」

 4月14日午後、名古屋市中区愛知県体育館のボクシング練習場に、心地よいミットをたたく音が響いた。アイマスクをした人たちがスパーリングに励んでいる。

 月1回の「ブラインドボクシング」の練習会だ。この日も、男女10人ほどのボクサーが汗を流した。

 通常のボクシングと違い、両者は打ち合わない。視覚障害者はアイマスクをして、鈴付きのひもを首にかけたトレーナーにパンチを打ちこんだり、あらかじめ決められた形でパンチを防御したりする。

 1ラウンドは2分。相手を倒すことが目的ではない。フットワーク、パンチの有効性、パンチのコンビネーション、防御姿勢、ファイティングスピリッツの五つの採点基準により優劣をつけ、勝敗を競う。

「もう何もできない」から立ち上がった

 昨年5月から練習会に参加している東郷町の織田英嗣さん(60)は、元プロボクサーだ。19歳でボクシングを始め、プロテストに合格。中日本地区のライト級新人王にも輝いた。

 現役を引退したあとは名古屋三越へ就職。だが42歳で食道がんがみつかり、胃やリンパ節などにも転移していた。15時間にも及ぶ手術を受けた。

 闘病生活を経て、体力の維持を図るため、55歳で大好きなボクシングを再開した。

 しかし、22年暮れ、緑内障で失明の恐れがあると診断された。両目を手術し、左目は8%、右目は24%しか見えなくなった。車の運転もできなくなり、ジムにも通えなくなった。

 「もう何もできない」。失意…

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