完了しました
〈みなさん、覚えていますか? 僕たちは子どもの頃、ちょっとしたアイドルだったんです――〉
愛らしい姿で全国区に
かつて「ロデオ猿」として一世を
見るものを笑顔にさせる名コンビ誕生の裏には、実は悲しい物語がある。
みわは2010年6月、福知山市で保護された。崖から転落し、傍らで死んでいた母親にしがみついて鳴いていたところを住民に発見され、同園にやって来た。「みわ」の名前は発見場所の旧三和町にちなむ。
ニホンザルの子どもは、生まれて1年程度は母親に抱きつく習性がある。母親を失ったみわは、ほどなく、同時期に保護されたウリ坊を母親がわりに、背中に乗って園内を散歩するようになった。
5億円以上の経済効果とも
2匹の姿が新聞やテレビで報じられると、一躍、全国区に。そのフィーバーぶりはすさまじかった。年間6万人だった来園者が一気に3倍以上になり、入園待ちになることも。グッズは飛ぶように売れた。
波及効果は街にも及び、市内の飲食店も連日満員に。その経済効果は「5億円以上」とも言われる。福知山と間違って、広島県福山市の動物園を訪れる人もいたという。
ところが、フィーバーぶりは長くは続かなかった。保護時に300グラムだったみわは、みるみる成長。相棒のウリ坊はそれを上回るスピードで巨大化し、数か月で「赤ちゃん」とは言えないサイズに育った。そうして、みわは半年ほどでロデオを卒業してしまった。
脱走騒ぎを機に
みわとウリ坊は今も、福知山にいる。
ロデオ卒業後も2匹は一緒に過ごしていたが、みわは19年に脱走騒ぎを起こし、それを機にウリ坊とのコンビは解消された。現在は別々の
2匹ともすっかり貫禄のある姿になった。同園には今も、ブームに乗り遅れた人がやってくる。「やっと来たのに、あんたら、こんなにおっきくなってしもたんかいな」。檻の前で、つぶらな瞳にあの頃の面影を探しているという。
野生に返す難しさ
同園は、けがをした動物の保護施設も兼ねている。しかし、いったん人に慣れてしまった動物を野生に返すことは難しい。ニホンザルは人に危害を加える恐れがあり、みわを1匹だけの檻で飼育しているのもそんな理由からだ。
〈“ピン”になったけど、僕たちはそれぞれ、それなりにやってます>
まばゆいスポットライトを浴びた名コンビは、自然界の厳しさや、そこに人が関わる難しさも教えてくれる。(加藤律郎)