箱根駅伝もニューイヤーも無縁 スーパーの店員が世界王者になるまで

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斎藤孝則
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 世界王者は、こう答えた。

 「残念ながらスーパーマンと言われたことは一度もありません。スーパーの社員ですけど……」

 50キロ以上を走るウルトラマラソン。「スーパーマンって言われたことはありますか?」とたずねられると、2022年の100キロ世界選手権を制した岡山春紀(29)が戸惑いながらも、静かに話した。

 岡山は実業団の駅伝部に所属しているものの、箱根駅伝に出たことがないばかりか、ニューイヤー駅伝で補欠になったこともない。そんな岡山が、どうやって世界王者に……。軌跡を追った。

高校も大学もけがに苦しむ

 岡山が働くのは、東京都に本社を置き、1都3県で86店舗を展開する食品スーパーマーケット「コモディイイダ」。一般採用で入社すると青果部へ配属され、現在は移動スーパー「とくし丸」の営業を担当している。

 高校時代は熊本県の強豪校で高校総体全国高校駅伝を目指したが、過度な減量もあって故障を繰り返していた。

 進学した箱根駅伝出場70回の古豪、東京農大でも歯車が狂った。一般学生と同じく入部セレクションを受けなければならなくなったが、ケガが再発。セレクションを受けられなかった。

 陸上競技のサークルでの「浪人生活」を経て、1年後に門をたたくと仮入部を認められた。正式な入部の条件は「7月までに5千メートルで15分を切ること」。またもケガが再発し、設定タイムをクリアできずに入部できなかった。

川内流との出会い

 それでも「走るのが好き」という岡山は諦めなかった。参考にしたのが「最強の市民ランナー」と呼ばれ、37歳の現在もプロランナーとして活躍する川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)だった。

 日本の陸上界の常識にとらわれない川内は公務員として働きながら、平日の練習は1日1回のみ。負荷が高いポイント練習の代わりに週末のレースに出場し続けていた。マラソンやハーフマラソンの大会前日に疲労回復も兼ねてウナギのかば焼きを食べる選手が多いなか、何杯ものカレーを胃袋に流し込んだ。

駅伝の選手としては厳しかった岡山。憧れのランナーからマラソンメソッドを学び、恩師の助言を得て、ウルトラマラソンに出会いました。

 川内のやり方を採り入れ、練…

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    蟹江憲史
    (慶應義塾大学大学院教授)
    2024年4月24日12時43分 投稿
    【視点】

     陸上競技をやっていたものとしては、岡山さんの個性的な取り組みに感動を覚えました。日本は大学も社会人も駅伝人気が高く(むしろ高すぎる)、その結果として、駅伝が宣伝の場として機能して、企業や大学が「駅伝シフト」をしています。それはそれでよい面

    …続きを読む